はじめに
みなさん、こんにちは。株式会社セールスフォース・ジャパンのトレイルブレイザーリレーションズチームで、Developer Advocate を担当している odasho です。
激戦を勝ち抜き見事優勝に輝いたチーム「Lightning Brightning」のソリューション「Beauty Cloud」について、その開発背景や技術的な実装内容、そしてビジネスにもたらす価値について詳しくご紹介します。
開発の背景: リテール業界が抱える「構造的課題」
化粧品リテールの現場では、長年にわたり「人に依存する運営」から脱却できないという構造的な課題が存在しています。チーム Lightning Brightning は、具体的なペインポイントとして以下の「悪循環」に着目しました。
- 接客品質のばらつき(属人化): 顧客への提案内容がスタッフ個人の経験や勘に依存しており、ベテランと新人では成果に大きな偏りが生じている。
- 非効率なデータ活用: 顧客データ、購買履歴、カウンセリングデータが複数のシステムに散在しており、それらを統合してパーソナライズされた接客に活かすことが困難。
- スタッフ育成の限界: 人手不足により十分な育成時間が確保できず、SNS運用やデジタルマーケティングなど多角的なスキルが求められる現代において、現場の負荷が増加。
これらの要因により、現場は「非コア業務」に忙殺され、本来注力すべき「顧客体験の最大化」が実現できていないのが現状です。
ソリューション: AI が実現する「データ駆動型リテール」
チームが提案した「Beauty Cloud」は、これらの課題を一掃し、化粧品リテールを「AI駆動型」へと変革するソリューションです。 最大の特徴は、Agentforce が顧客対応やデータ分析といった「非コア業務」を肩代わりし、人間が「コア業務(高付加価値な接客)」に専念できる環境を作る 点にあります。
- 瞬時のパーソナライズ接客: 会員データや過去のカウンセリング記録を Agentforce がリアルタイムに解析し、お客様に最適な提案をスタッフへ即座に提示。
- マーケティングの民主化: 専門的なスキルがなくても、AI・BI が購買履歴に基づいて顧客リストを自動でセグメント化し、最適なアプローチを支援。
- リアルタイム業績管理: 売上目標や達成状況をダッシュボードで即時可視化し、AI が分析をサポート。
技術的ハイライト: Agentforce と Tableau Next / Data 360 の高度な連携
開発者視点で特に注目すべきは、Agentforce を中心に、顧客接点から高度なデータ分析までを一気通貫でつなげたシステム構成です。
- リアルタイム Q&A とトスアップの自動化 ウェブサイト上では Agentforce が顧客からの質問や相談にリアルタイムで対応(Q&A)。そのまま来店予約(カウンセリング予約)へとスムーズに誘導し、予約タスクを自動化します。
- Data 360 / Tableau Next による高度な分析基盤 本ソリューションでは、単なる顧客管理にとどまらず、Tableau Next や Data 360 といった高度な分析基盤を活用しています。
- 在庫検索・取り置きの自動化: 店舗スタッフが自然言語で問い合わせるだけで、AI が他店舗を含めた在庫検索を行い、取り置きタスクを自動作成します。
- 自然言語による売上分析: Tableau の AI 機能を活用し、チャットベースで「売上分析」や「会員リスト作成」を行うことが可能です。
- Slack を UI とした業務完結 これらの高度な機能は Slack と連携しており、スタッフは使い慣れたチャットツール上で Tableau Next の分析結果を受け取ったり、次のアクションを確認したりすることができます。
デモ動画 では、入力インターフェースに Lightning Web Components (LWC) を採用し、スタッフが直感的に操作できる UI を構築している点もポイントです。これにより、経験の浅いスタッフでも、 AI の支援を受けてベテラン並みの提案が可能になります。
導入効果とビジネスインパクト
「Beauty Cloud」の導入により、リテール現場の働き方は劇的に改善されると予測されます。
- 業務時間の削減: Q&A や予約対応の AI 自動化により、これまで 1 件あたり 10 分かかっていた対応時間をほぼゼロに(100% 削減)。
- マーケティング業務の効率化: DM 顧客リストの抽出や施策実行にかかるリードタイムを 98% 以上削減。
- 顧客体験の向上: スタッフの経験に依存せず、過去データに基づいた精度の高い提案が可能となり、顧客満足度の向上と均一化を実現。
結果として、店舗スタッフやサポートスタッフは年間数百時間を「接客」や「クリエイティブ」な業務に再投資できるようになり、「経験や勘」に依存しない高品質な顧客体験が標準化されます。
おわりに
Lightning Brightning の「Beauty Cloud」は、Agentforce が単なるチャットボットではなく、データに基づいた意思決定とアクションを実行する強力なパートナーになり得ることを証明しました。
リテール業界に限らず、データ分断や属人化に悩む多くの業界にとって、Agentforce と Salesforce エコシステムを活用したこのアプローチは大きなヒントとなるでしょう。
Agentforce Hackathon Tokyo Demo Day に進出した全チームのプレゼンテーションは、前後編で以下からご覧いただけます。
【初代王者は誰だ?】革新的なAIエージェント デモ大会!Agentforce Hackathon Tokyo(前編)|Salesforce
【AIエージェント開発の頂点へ!】未来を変えるAIエージェント決定戦!Agentforce Hackathon Tokyo(後編)|Salesforce