はじめに
みなさん、こんにちは。株式会社セールスフォース・ジャパンの Trailblazer リレーションズチームで、Developer Advocate をしている odasho です。
2026 年 6 月に開催された TDX Tokyo 2026 (Agentforce World Tour Tokyo) の会場で、Salesforce の実装スピードと正確性を競う「Lightning MiniHack Live」が初開催されました。予選を勝ち抜いた 4 名のファイナリストが 1 vs 1 のトーナメント形式で対決し、初代チャンピオンが誕生しています。
ファイナリストのご紹介
Madani Abdullah さん(サークレイス株式会社) — 初代チャンピオン シリア出身。日本のアニメや文化に惹かれて 2019 年に来日し、2025 年 4 月にサークレイス株式会社へ新卒入社。Salesforce デベロッパーとして活動中です。
Yuki Hasegawa さん (東京都市大学 メディア情報学部 社会メディア学科 3 年) 昨年の Agentforce Hackathon Tokyo で優勝した企業でインターン中の学生。本ハッカソンが Salesforce にほぼ初めて触れる挑戦でした。
Tomoki Omuro さん (東京都市大学 メディア情報学部 社会メディア学科 3年) Hasegawa さんと同じ企業 (株式会社 Tekuru) でインターン中。日頃から社長や先輩たちが挑戦する姿を間近で見て、自身も初の大会参加を決意しました。
Tatsuro Suzuki さん (アクセンチュア株式会社) Salesforce 歴 14 年のベテラン。近年はマネジメント側に軸足を移しつつも、現場の第一線であり続けるために挑戦を決めました。当日はオンラインでご参加いただきました。
聞き手は Salesforce の Kimura と odasho です。
なぜ Lightning MiniHack Live に挑んだのか
Madani さんは、昨年のハッカソンにも応募した経験があり、挑戦することそのものに強い哲学を持っています。
「挑戦しなかったら、あとに残るのは『挑戦しなかった』という結果だけです。生きている間に挑戦できる機会があるなら挑戦したい。それに、コミュニティには技術や実装に長けた方が多いので、そうした方々と競える機会は楽しいんじゃないかと思ったんです」
Hasegawa さんのきっかけは、同じインターン先の Omuro さんからの誘いでした。
「私は現在大学 3 年生で、就職活動が始まったばかりです。クラウド業界やソフトウェア業界を志望しており、その中でも Salesforce の技術やエコシステムに魅力を感じていました。学生のうちに実践的な技術力を磨き、自分の力を試したいと思っていた中で、この Lightning MiniHack Live の開催を知りました。ひとりだけでは挑戦しなかったかもしれませんが、Omuro さんも挑戦したいということを教えてもらい、挑戦への勇気をもらいました」
Omuro さんは、インターン先の社長の背中を見て、挑戦を決意したそうです。
「社長が 2025 年に Agentforce Hackathon など様々なイベントや事業に挑戦している姿を日々見ていて、自分もそのような経験がしてみたいと思って応募しました」
そして Suzuki さん。14 年のキャリアを持つベテランならではの、少し意外な動機でした。
「徐々にマネジメント側に移りつつあって、最近は Apex を組む機会も減ってきていたんです。プロジェクトのメンバーには『最新のリリースノートを読み込もう』『最新情報をキャッチアップしよう』と言っている手前、私自身もちゃんとキャッチアップして『我々もいけるんだぞ』というところを見せたい。そんな気持ちで応募しました」
「最速」はこうして作られた 〜予選・本選への準備〜
予選・本選で問われたのは、スピードと正確性の両立。ファイナリストたちはそれぞれのやり方で「最速」を作り込んでいました。
Madani さんの練習法は、アスリートさながらの動画分析です。
「自分の実装を動画に撮って、時間を確認する。『この部分はもっと速くできる』『ここは AI に任せられる』と分析してもう一度練習する。その繰り返しで毎回タイムを縮めて、最速の手順を作り込んでいきました。ベストの動画は残しておいて、AWTT (Agentforce World Tour Tokyo) に向かう移動中もスマホで見返していましたね」
学生のお二人は、インターン先のメンバーを巻き込んだチーム戦でした。
「オンラインで社員のみなさんと勉強会をしたり、空いている時間にタイムを計って『何分何秒だった』と社内で共有して競い合ったり励まし合ったりしていました」(Hasegawa さん)
「『インターンシップの業務時間を使って練習していいよ』と言ってもらえたことが、まず大きかったです。さらに、実装方針を一緒に考えてもらったり、操作方法の練習を見てもらったりと、社長自らサポートしてくれました。ここまで挑戦できたのは、会社全体で背中を押してもらえる環境があったからだと思います」(Omuro さん)
Suzuki さんは、要件の「見切り」から入る戦略派です。
「ひととおり試してみて、3 シナリオのうち 2 つは制限時間に収まらないと判断しました。だったら他の方もハマらないはずだと前提を置いて、いかに業務が回る形に要件を絞るかを考える。制限時間内で実現できる最大限のアプリケーションを設計して、あとはひたすら練習。1 分のバッファを残して収まるまで作り込み、その 1 分で加点要件を取りにいくアプローチです」
ちなみに運営側では、皆さんから提出された予選のプレイを全部絶叫しながら見ていました。予選通過タイム 1 位は Madani さんで、なんと 2 位に約 1 分半の差をつけてのトップ通過でした。
四者四様の実装選択 〜入力規則? フロー? Apex トリガー?〜
本選の課題は、入力規則・フロー・Apex トリガーのいずれでも実装できるバリデーション要件。「緊急フラグがオンなら予算超過チェックをスキップする」という例外ロジックの扱いが勝負どころでした。ここでファイナリストたちの選択が分かれます。
Suzuki さんの選択は Apex トリガーでした。
「フローでもいけると思うんですが、ドラッグ & ドロップやダブルクリックで設定画面を開く操作には、1〜2 秒ずつの積み重ねがあります。一方トリガーなら、最後に一発セーブすればそこでしか PC とサーバー間の通信が発生しない。そこに賭けました」
Omuro さんはフローを選択。理由は「安定性」です。
「ほかの手段を試したときに読み込みに時間がかかることがあって、録画するタイミングによってタイムがまちまちだったんです。安定しないなと思って、フローだけに絞りました」
Hasegawa さんは、初心者として「確実性」を最優先しました。
「カスタムエラーを使いました。奇をてらったやり方だと自分が混乱してしまうと思ったので、速さには欠けても確実にできるものを選びました。とにかく間違えないように、です」
そして優勝した Madani さんの選択は、フロー。ただしその使い方が徹底されていました。
「Apex とフロー、どちらも試したうえで、私はフローを構築するほうが速かったんです。ホットキーで速度を上げられますし、数式も使える。そして読み込み時間の間には必ず別の作業をする。フローの弱みを、作業のパラレル化でカバーしていました」
得意なものを選ぶのではなく、検証したうえで「自分にとっての最速」を選ぶ。全員に共通していたのは、この姿勢でした。
AI 時代における「実装力」とは何か
今回の運営側のこだわりは、AI で何でもできるようになった時代における「人による実装力」でした。そこで、AI ツールと人が手を動かす力の関係をどう捉えているか、全員に聞いてみました。
Madani さんの判断基準は明快です。
「まず自分に問いかけるのは『AI にプロンプトを書くより、自分の手を動かしたほうが速いか?』です。自分の手のほうが速いならプロンプトを書く時間がもったいないし、プロンプトの結果が必ずしも欲しいものになるとは限らない。逆に AI に任せると決めたら、指示をしている間に自分は別のことをする。これからの実装力は『誰が最も正しく AI に説明し、正しい出力を引き出せるか』になっていくと思います」
Suzuki さんは「対話力」というキーワードを挙げました。
「これからの実装力は、対話力とニアリーイコールになっていくと思っています。明確な要件があってあとは作るだけ、という領域は AI が担っていく。一方で、コンタクトセンターやフィールドサービス、営業といった現場で汗をかいて、お客様と話しながら『あ、これはこの画面に欲しかったんだ』とサクッと作って当てられる力は、どうしても人間が必要です。Salesforce は画面をドラッグ & ドロップで実装できるので、対話ツールとしても優秀なんですよ」
学生のお二人は、AI との日々の付き合いから実感を語ってくれました。
「出てきた成果物を評価して、さらによく改善していくのは人間の楽しみだと思います。曖昧な指示だと想定と全然違う動きになってしまうので、『自分がやりたいことは何か』を自分の中で明確にすることが大事だと感じています」(Omuro さん)
「私も日常会話くらいの感覚で AI を使うんですが、けっこう間違いが多くて。『ここ違くない?』と言うと『すみません』って、平気で嘘をついてくるんですよ(笑)。だからこそ、AI が生成したものを精査する力が実装力において大切なんじゃないかと思います」(Hasegawa さん)
初代チャンピオンの勝ち筋 〜ウィナーズインタビュー〜
優勝した Madani さんに、勝因を自己分析してもらいました。
「横の画面で AI に指示を出して、AI が作っている間に、私は AI にできないことを別の画面で進める。Agentforce Grid など Salesforce の最新機能を使おうという意識もありました。完全に AI に任せるのではなく、指示して、待っている間に他の作業をして、戻ってきて AI の生成物を編集する。このやり方が優勝に導いてくれたと思っています。こうした、要件に応じて最適な実装方法を見極め、AIと自身の技術を使い分けながら素早く形にする力は、実際のお客様のプロジェクトでも生かされています。お客様のご要望に対して、スピードと品質を両立させながら設計やコーディングを進める推進力につながっています」
「優勝できると思っていましたか?」という質問には、迷いなく「はい」。
「私は自分が勝つと思って挑戦していました。たとえ勝てなかったとしても『全力を尽くした』と言えるくらいの努力はしたつもりです」
優勝が決まった瞬間については、こう振り返ります。
「言葉にできないくらい幸せでした。頑張ったことの価値を感じられる瞬間が、一番幸せなんだと思���ます。Salesforce の知識が少ないところから増やしながら、それでも『勝ちます』という自信を持って頑張れたことは、次の挑戦への自信にもなります。この結果は自分の努力だけではなく、職場のみなさん、そして妻をはじめ、多くの支えてくれた方々のおかげです。……ただ同時に、練習では時間内に終わらせられたのに、本戦では収めきれなかった悔しさもあるんですけどね」
チャンピオンはすでに次を見据えていました。
挑戦を終えて 〜これから参加するあなたへ〜
最後に、この挑戦で得たものを聞きました。
「Salesforce は名前を聞いたことがある程度の認識だったので、ノーコードでアプリを作れる世界があることをまず知れました。就活の面でも『こういう進路もあるんだ』と視野が広がったのは大きなメリットです。私はもともと人前に出るのがすごく苦手で、予選に通ったときも『みんなの前でやるのか……』と危惧していたくらいなんです。1 vs 1 の対戦では敗れて決勝には進めず悔しかったのですが、足も手も子鹿のように震わせながら(笑)、それでも実力を発揮できた。自分の中で本当にいい経験になりました」(Hasegawa さん)
「Salesforce は知っていましたが、企業が業務で使うものという格式高いイメージがあって、自分に触れるのかなという気持ちがありました。でも触ってみると、どういうものか分かればできるものなんだなと。知らないから勝手に難しいと思い込んでいただけで、自分の中のハードルがすごく下がりました。今回自信がなくて挑戦しなかった方がいらっしゃれば、難しくとらえすぎず、次回挑戦していただけたらと思います」(Omuro さん)
「一番よかったのは、新しい知識を得られたことです。普段使っているとはいえ、自分のプロジェクトで触る機能は本当に一部なんですよね。聞いたことはあっても自分の手で作ったことのない機能に触れられましたし、他のみなさんのプレイから『こんな方法があったのか、これならもっと速くなる』と学べたのも、すごく面白い経験でした」(Suzuki さん)
おわりに
運営としてこの企画には、「AI 時代でも、やろうと思えば人はキャッチアップできる」ということを証明したいという思いがありました。Salesforce にほぼ初めて触れる学生から 14 年のベテランまでが同じ土俵で本気の勝負を見せてくれたことで、それが証明されたと感じています。
一方で作り手としては、クリアされると難易度を上げたくなってしまうのも正直なところ(笑)。せっかく初代チャンピオンが誕生したので、次回はレギュレーションや名称が変わるかもしれませんが、挑戦してくれたみなさんに報いるような、そして初めての方がもっと参加しやすいような形を用意していきます。
この記事を読んで「自分もやってみたい」と思った方は、まずは Trailhead で Salesforce に触れてみてください。次はあなたの挑戦をお待ちしています!



